旅するスクールとは、旅をしながらライティングとカメラを学ぶ新しい学校です。2017年2月に長野県塩尻市で第1弾が行われてから、今回が10回目。キャンセル待ちになるほどの人気のスクールになりました。

今年は愛媛県大洲市と宮城県山元町の2県での開催した旅するスクール。2019年の最終回は11月30日・12月1日の2日間、宮城県山元町を訪れ、町や人の魅力にたっぷりと触れてきました。

大洲市のレポートはこちら↓

https://tabisuku.net/report-oozu1-2

はじめまして、山元町

朝は雪がちらついていた仙台駅から、JR常磐線に乗り換えて電車に揺られること約40分。車窓から見える空がだんだんと明るくなったころ、山元町の玄関口である山下駅に到着しました。駅に隣接する「つばめの杜ひだまりホール」に移動して、カメラとライティングの講座が始まります。

と、その前にまずは参加者とスタッフで自己紹介。つづいて山元町についての紹介です。山と海をあわせ持つ山元町はりんご、いちご、ほっき貝と様々な名産があること。2011年の東日本大震災では町の人口の4%を失い、20%以上が流出し、いちごハウスの95%が津波に飲み込まれてしまったこと。

最近では町の内外へ魅力を発信しようと2015年から「山元はじまるしぇ」を開催していることなど。都会で暮らしているとなかなか知ることができないことがたくさんあり、聞けば聞くほど山元町のいろいろな面を知ることができました!

カメラ、インタビュー、取材の心構えを学ぶ

つづく栗原大輔さんによるカメラ講座では、正しいカメラの構え方から始まり、絞りやシャッタースピード、露出補正…と、カメラ任せでなく自分で考えて撮る方法をレクチャーしていただきました。

実際にカメラをさわりながら聞けるのが旅スクのカメラ講座の良いところ!栗原さんは参加者全員のもとを回って、カメラの設定を丁寧に確認してくださり、密度の濃い時間になりました。写真を通じて、自分の感性や視点を他の人と共有できるのって素敵だな、そんな気持ちになりました。

カメラ講座のあとは、お待ちかねのランチタイム。お弁当は、この時期にしか食べられないシャケといくらがたっぷり入った山元町の名物「はらこめし」です。

先ほど学んだことを実践しようとカメラを構えると、夢中になってしまってなかなか食べられないのが悩ましい!ようやくほおばったらイクラのプチプチした食感と、新鮮な鮭の風味が嬉しくて、箸が止まりません。お腹がふくらんだところで講義再開です。

午後は谷津智里さんによるインタビュー・編集講座。まずはインタビューや編集で大切なことを教えていただきました。相手に興味を持って、特にどこが魅力的なのか探しながら話を聞く。「だれに」「何を」伝えたいのかを明確にする。ポイントは思い切って1つにしぼる。起承転結の型を踏まえて書く。

谷津さんの具体例を交えた説明で、文章のきほんを掴んだところで、2人1組になってインタビューとライティングの実践を行いました。カメラ担当も、栗原さんにアドバイスをもらいながら、インタビューの様子を撮影します。

最後はインタビュー内容を文章にまとめて発表。短いけれど、お互いの人となりを分かり合える貴重な時間になりました。

自分で歩いて町の「いま」を知る

17時前には日没となる冬の山元町。講座を終えたらすぐに町内の散策に向かいます。車窓から見えた旧自動車学校跡地の慰霊碑や、商店の屋根近くまで津波が到達したことを示す標識は、都会にいると薄れがちな東日本大震災の記憶を呼び起こします。

そして最初に降り立った旧中浜小学校の跡地は、震災遺構として保存するための整備工事の最中でした。ショベルカーが動き回るグラウンドの向こう、津波を受けたときの姿を残す校舎を見つめ、みなさんそれぞれに思いを馳せているようでした。

次に訪れたのは、福島県との県境にある磯浜漁港。停泊する漁船や砂浜に打ち上げられた貝殻を撮影したり、県境近くまで散歩したりと思い思いに過ごします。浜辺を後にする前に、夕暮れ空をバックにみんなで集合写真をパチリ。

散策の締めくくりに向かったのは、2019年2月に完成した農産物直売所「やまもと夢いちごの郷」。店内には地元でとれたいちごや柿、りんごといった季節のくだものや野菜がいっぱいです!翌日訪れる「畑楽」内藤さんのバターナッツかぼちゃとカリフローレを発見。

山の魅力だけでなく、つぶ貝やタコなどの海の味覚、昨年の取材先「スルーエイジ農園」の完熟トマトジュース「このゆびとまと」をはじめとするこだわりの加工品もずらりと並んでいて、町の魅力が詰まった施設でした。

山元の家族の一員になった夜

さらに福島県まで足をのばして、半年前にオープンした相馬郡新地町の「つるしの湯」で疲れを流したら、この日の宿泊先、藤川さんのお宅におじゃまします。

町役場で働くかなえさんと、たまきちゃん・みずきちゃん・あきちゃんの三姉妹、料理上手のおばあちゃん、穏やかなおじいちゃんに迎えられ、家族のようにみんなでこたつに入り、お鍋をかこみました。

お話し好きのかなえさんとお酒を傾けたり、元気な三姉妹とゲームで勝負したりと大賑わいの夜でした。でも、飲んでいただけではありません!その日撮影した写真をテレビに映して栗原さんに見てもらいました。

みんなが撮った写真を見比べると、お互いの個性があらわれていて面白い!目が留まるもの、画面の切り取り方、明るさや色合いがこんなに違うなんて、とここでも写真の奥深さを知ることに。気づけばあっという間に夜が更けていきました。

いよいよ取材本番!

12月のきりりとした冷気が漂う2日目の朝。おばあちゃんが作ってくれた美味しい朝ごはんに元気をもらって、いざ取材へ!…とその前に、まずは山沿いのアップルライン近くの丸清りんご園を訪れました。どこを見渡しても真っ赤なりんごが日光に照らされてピカピカと輝いて、シャッターを切る音が止まりません。

鈴なりに実ったりんごを見ているだけだと分からないのですが、実はここにも10月の台風の影響があったそう。木の根があらわになるほどの大水を受け、例年に比べて収穫量が少なくなってしまいました。

そんな中、ぐんま名月という青りんごをごちそうしていただきました!サクサクと軽い食感とジューシーな甘み、ほのかな酸味。取れたてのりんごのおいしさを堪能しました。

海側へバスを走らせ、いよいよ最初の取材が始まります。午前の取材先は、埼玉から移住し津波で浸水した沿岸部で農業を営む「畑楽(はたらく)」の内藤さん。東京ドームより広い畑の一角でインタビューです!

ライター組はビニールハウスの中、内藤さんのお話に熱心にうなづき、ペンを走らせます。同じころ、広々とした畑の風景や大きく育ったブロッコリーやカリフローレを写真に収めていくカメラ組。どちらのチームも、限られた時間でできるだけ魅力的な素材を集めようと真剣な表情です。記事の出来上がりが楽しみですね。

取材の合間のお楽しみ、お昼ごはんは山元町の洋菓子店「プチット ジョア」伊藤さんお手製のクロワッサンサンドと、内藤さんの畑でとれたバターナッツかぼちゃを使ったティラミス!味はもちろんビジュアルも抜群で、ここでもちょっとした撮影会状態に。伊藤さんや内藤さんも加わり、楽しいランチタイムとなりました。

この旅もいよいよ大詰め。午後の取材では、ご自宅の一角で美容室を開いた加藤さんにお話を伺いました。印象的なのは、サロンスペースの一角にお子さま用の車型シートを用意したり、手ごろなキッズ料金を設定したりと、子どもが来やすい場を作っていること。

その背景には、加藤さんを応援するご主人の想いがありました。家族って素敵だなとしみじみ感じられるお話の数々がどんな文章にまとまるのか、ワクワクします!

また、加藤さんのインタビュー中に、地元新聞の記者の方が旅するスクールの取材に訪れましたが、取材を受けたライター担当の方は、本当に初めて?と思うくらいに落ち着いて話をしていました。

取材を終えたら「つばめの杜ひだまりホール」に戻り、振り返りの時間です。たくさんの人と出会い、参加した皆さんそれぞれ心動かされる旅になったようです。

最後に、お土産として、内藤さんから採れたてのカリフローレ、旅するスクール山元の運営を担当している一般社団法人ふらっとーほくからは山元町のりんごが配られました。

2日間の濃い経験が凝縮されたフリーペーパーの完成を、みなさんどうぞお楽しみに!

文:岩山有子