旅するスクールとは、旅をしながら、ライティングとカメラを学ぶ、新しい学校です。2017年2月に長野県塩尻市で第1弾が行われてから、今回が6回目。キャンセル待ちになるほどの人気のスクールになりました。

11月に引き続き、12月の旅スクの舞台は宮城県山元町。前回とはまた一味違った、町の風景や人と出会う2日間になりました。

11月のレポートはこちら

山元町を聞いて、感じる1日目

冬晴れの中、山元町の玄関口である山下駅に集合した参加者の皆さん。隣接する「つばめの杜ひだまりホール」に移動し、さっそく講座が始まります…!

とその前に、旅スク恒例の「名前リレー」。参加者と講座の先生、山元町の方々…と大勢いましたが、全員の名前を覚えようと皆さん必死になっていました(笑)。場があたたまったところで、山元町に移住した泊さんから、町の紹介がありました。

旧山下村と旧坂元村が合併し、山元町になったこと。「東北の湘南」と呼ばれるほど、日照時間が長く、温暖な気候の町であること。いちご、リンゴ、ほっき貝、いくら…と、山と海の恵みが豊かであること。

その一方で、2011年の東日本大震災では町の人口の4%を失い、20%以上が流出し、いちごハウスの95%が津波に飲み込まれたこと。沿岸部と山間部で津波の被害格差が存在すること、復興工事がまだまだ完了していないこと。

町を知る手がかりがたくさん込められた泊さんの紹介に、参加者の表情がすっと引き締まるのが分かりました。

取材の心構えを学ぶ

そして、いよいよ栗原大輔さんによるカメラ講座です。「あなたが撮りたいものは何ですか?」という栗原さんの問いから始まった講座。

「撮った人の物語が伝わるような写真が撮りたい」「その人の知られていない一面を伝える写真を撮りたい」「海の生き物や景色を撮りたい」「子どもの自然な表情を撮りたい」

参加者の皆さんが大切にしている思いや、好きなもの、その人らしさが垣間見えたように思います。

写真は「その人の感性や生き様を反映したもの」だと栗原さんは言います。だから、いい写真は、人それぞれ。今回の講座では、いい写真をとるための「技術(テクニック)」を学びました。

正しいカメラの構え方から始まり、シャッタースピードや露出補正の話まで。参加者は一眼レフとにらめっこしながらも、とても楽しそう。先生が個別で見てまわってくださり、密度の濃い時間になりました。

お昼を挟んで、及川恵子さんによるライティング講座が始まります。取材した人の「人となり」に触れられることが、この仕事の良さだと語る及川さん。

ライターという職業は、時にキラキラしたイメージを持たれがちですが、及川さんは「泥臭い仕事」「足をつかってなんぼの仕事」だと言います。相手にきちんと伝わる文章にするまでにはさまざまな下ごしらえが必要で、その大変さを参加者の皆さんも実感したようでした。

「取材対象を好きになる」「好きになると興味を持ってあれこれ聞きたくなる」
「会話とその空間を楽しむ」「自分が読んで面白いと思う文章を書く」

明日からの取材でも大切にしたい心構えが、至るところに散りばめられた及川さんの語り。参加者の皆さんは、まるで及川さんを取材しているかのように、たくさんの言葉を書き留めていました。

講座の最後に、今回の制作物と編集の役割について、編集担当の谷津さんからお話がありました。今回の制作物とコンセプトは、「山元町で自分らしく生きる人をめぐる旅マガジンで、人の魅力を伝える」というもの。

「参加者それぞれが山元町で見つけた魅力をまだ知らない人に伝える」という具体的なイメージが提示され、参加者の顔もぐっと引き締まっていました。

「送り手と受け手の距離を縮めること」が編集者の役割だと谷津さんは言います。

「そのまま言っても相手に伝わらないことがある。その時に、間に入って伝わりやすいようにしてあげる」という難しく、大事な役割を担うのが編集者。

私自身、初めて編集者の仕事の難しさに触れたように思います。

山元町の「今この瞬間」を目の当たりにして

カメラとライティング講座終了後、夕暮れが近づく中、山元町めぐりに繰り出します。

まずは、旧山下駅前と「みんなの写真館」へ。現在の山下駅は、ちょうど開通から1年。旧山下駅は東日本大震災で津波が押し寄せた場所で、駅のホームがかろうじて形を残していました。

駅の跡、そして、写真館に展示してある当時の写真や新聞記事。もうすぐ7年の月日が経つけれど、経つからこそ向き合わなければいけない、当時を伝えるものがたくさんそこにありました。

その後訪れたのは、旧中浜小学校の跡地。ここは、震災遺構として後世に残すことが決まっていて、駅や写真館以上に3.11で時が止まったままの場所でした。

折れた時計台、ゆがんだ校舎の鉄筋、建物があったはずの場所に広がる、一面の草原。はじめて被災地に足を踏み入れた参加者も、そうでない参加者も、案内してくれた山元町の皆さんも、それぞれ思うことがたくさんあるようでした。

続いて、町境の磯浜漁港へ。町境でもあり、福島県との県境でもあります。

「きれい…!!!」

ちょうど日が落ちる直前で、そこには薄いピンクと深い青が混ざった広い空が…!そして空の色を映すきれいな海に大歓声が上がりました。カメラマンの栗原さん含め一気にテンションがあがり走り出す姿は、まさに青春ドラマのよう。(笑)

掛け声に合わせてみんなでジャンプして集合写真をパチリ。

今は穏やかで、走り回ったり、釣りをしたりする人もいる海だけれど、もう見たくないと語る人もいる海。個人的にはちょっと切なく感じる瞬間でした。

山元町の人の思いにふれた夜

そして1日目の最後は、ライター及川さんとカメラマン栗原さんによるデモ取材。実はここからが本番です(笑)。

デモ取材先はプチットジョアの伊藤さん。山元町で唯一の、そして初のケーキ屋さんを営んでいます。クリスマスソングと甘いいい香りに包まれた店内で、いざプロの取材を間近で観察します。

ほとんどメモをとらずに、心地よいテンポで、でも間髪いれずに話をどんどん深堀りしていく及川さんと、ちょっとした動きや表情を逃さずシャッターを切り続ける栗原さんの集中力というか、オーラというか、ただただ「プロってすごい…!」の一言に尽きました。

詳細は完成記事をお楽しみに!ですが、生産者さんの思いに寄り添い、「パティシエ」という職人がケーキを作る意味を考え、パティシエとしてケーキと向き合う伊藤さんの熱い思いが伝わってくる取材でした(ちなみに「今までのインタビューで一番話したよ」と伊藤さんはおっしゃっていました!)。

そしてやっと宿泊先のミガキハウスへ。ミガキハウスは古民家を改修した、あたたかい雰囲気のゲストハウスです。普段は東京でカフェを営み、山元町のいちごハウスで来年挙式予定!のご夫婦が、旬の山元町の食材でおいしい夕ご飯を用意してくださいました。

どのお料理も本当においしく、疲れた体に染みわたります…!

しばし料理にがっつく皆さん。笑

そのまま懇親会へ。ミガキハウスは人であふれ、学生さんや、Iターンの方が顔を出してくださったり。1粒1000円のミガキイチゴを栽培する社長さんがミガキイチゴやイチゴワインを差し入れしてくださったり、プチットジョアのケーキを食べたり。夜遅くまで、語りは尽きませんでした。

山元町の旬に囲まれる朝

2日目も晴天に恵まれました!

部屋で参加者の方主催のヨガ教室が開催されたり、朝の里山の空気を吸いに外に出てみたり。ミガキハウスは山の中腹に位置しますが、海まで眺めることができました。

東京と比較すると、ゆったりと、静かで自由な朝。

ご夫婦が用意してくださったサンドイッチとスープを、ジャズがゆったりながれる贅沢な空間でいただき、取材に備えてエネルギー満タンになりました。

朝ごはんの後はさあ取材…と思いきや近くのリンゴ農園でリンゴ狩りです!「たわわ」という表現がまさにぴったりな、真っ赤なリンゴが実る農園は、絶好の撮影スポット。

昨日の砂浜のように参加者のテンションが急激にあがり、夢中で写真を撮ったり撮られたり。肝心のりんごは本当に甘くてみずみずしい!丸かじりで取りたてを美味しくいただきました。

取材で山元町を深く知る

そして、いよいよ取材が始まります!

1件目の取材は、Shikata Styleの関口さん。かわいらしい木の看板と作品たちに囲まれた工房でインタビューです!

こちらも例によって、完成記事をお楽しみに!なのですが、自分がここで家具職人を営んでいる意味や、修理するときのお客様との寄り添い方、震災に対する思いなど様々なことを語ってくださる中に、町や人、仕事に対する愛情というか熱い思いが込められているように感じられました。

インタビュー担当は、はじめは緊張していたようでしたが、だんだんと笑顔になり、どんどん話を引き出していました。カメラ担当は、洋服が工房の木屑まみれに。それも気にせず、夢中で一瞬一瞬の表情をカメラに収めていました。

お昼をはさんで、2件目、そしてあっという間に最後の取材先へ。古民家改修と新築の両方を手掛ける守久建設の守さんです。

はじめに、守さんが改修を手掛ける古民家を見せていただきました。歩くたび、ミシミシ…と歴史を感じさせる音が響きます。確かにこのままでは住めない部分もあるけれど、暮らしていた人の面影が部屋の随所に感じられる、暖かく格式ある古民家でした。

その後、同じく守さんが手掛ける新築のモデルルームを見学。「ここに住みたい!」の声が続出する、木のあたたかみに包まれたモデルルームでした。

「家を壊すのはもったいない」と語る守さんたちの思いが、古民家にも、新築の家にもしっかり感じられました。

取材チームは、途中で場所が移動になったり、守さんの奥さんが登場したりしながらも、臨機応変に対応して、とても落ち着いた取材ぶりでした(本当にはじめてだったんでしょうか…)。

そして時間はあっという間に過ぎ去り、そのまま振り返りの時間に。「これからもよろしくお願いします」「また来ます」「参加して良かった」そんな言葉が参加者から語られ、山元町のみなさんはとても嬉しそうでしたし、私自身も、この場にいられてとても幸せな気持ちになりました。

これにて今年度の旅するスクールがすべて終了です。そして、来年度も山元町や、ほかの町の旅スクに続いていきます。次の旅するスクールと、完成するフリーペーパーを、みなさんどうぞお楽しみに。

文:梶文乃 写真:栗原大輔

本事業は、一般社団法人ふらっとーほくが宮城県平成29年度移住・定住推進連携事業の一環として実施しました。